- 最期の 1ヶ月 -

2021年11月22日(月)《1年前の今日は…》【余命1ヶ月?】

【 2020.11.22 (日) 】(1年前の今日)

恵子の具合が悪くなってからはそんな気になれずに全くドラムを叩いてなかった。
しかしこの日は夕方からバンドのスタジオリハーサルがあり1ヶ月ぶりにスティックを持った。
29日(日)にライブの予定が入っている。

今回は欠席させてもらおうかと思ったけど
ライブは生配信されるので病室で恵子にも見てもらえると思って出演することにした。
(しかし、結局欠席したが…)

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スタジオ後、恵子の部屋へ向かう途中でメールが来た。

≫入院手続きに住民票が必要とあり、いま駅の行政コーナーまで、必死にヨチヨチ歩いてきました。
≫帰りはタクシーに乗りたいところだけど、見当たらない~
≫またヨチヨチ帰ります(笑)

駅までは徒歩5分くらいなのにタクシー?ヨチヨチ??
状況がよくわからなかったけど会ったらわかった。

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足の浮腫みはひどくなっていて、膝や足首はパンパンで曲がらずしゃがむことも出来ない。
歩き方は歩幅が小さく確かにヨチヨチとしてペンギンのようだ。

浮腫みを通り越して膝から下、特に足首から先で水が滲み出ていた。
まるで熱いサウナに入って汗が出るかのように、拭いても拭いても水分が吹き出してきた。
歩いた床には濡れた足跡。

足の甲には無数の小さな裂け目が出来ていた。
見た目に反して痛みは全くないとのことだが。

水分を吸わせるために厚手の靴下を履く。
浮腫んでいてそのままでは履けないので靴下に切り込みをいれて入口を拡げる。
その上から包帯でグルグル巻いたけどほとんど意味はなくあっという間にびしょ濡れ。
なのでその上からコンビニの袋を履かせて輪ゴムで留めた。
袋の中はちょっと湿るという程度ではなく、すぐに水浸しでバシャバシャの状態。

またさらに悪化のスピードが上がっている。
住民票なんて僕がとりに行ってあげればよかった。
加速度的なスピードに対応がまったく追いつかない。

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17日(火)に国立がんセンターで受けた検査の結果を恵子が19日(木)に聞きに行き、その時の先生の話しを録音していて部屋で僕に聞かせてくれた。

録音の中で先生は「非常に厳しい話しだけど、残された時間は1ヶ月もないかもしれません」と言った。
「えっ・・・」と恵子の声は数秒のあいだ固まった。
恵子が動揺を見せたのはこの一瞬だけだった。
それ以外は最期の最期までずっと冷静で落ち着いたままだった。

それなのに僕はこれを聞いて涙が止まらなくなってしまった。
恵子の前では僕がしっかりして支えなくてはいけないのに。

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急激に疲れやすくなってきている。
身体の痛みも増してベッドで横の姿勢になれない。
壁にもたれかかって座った状態でウトウトして
また痛みで目が覚めての繰り返しでまともに眠れなくなっていた。
昼夜関係なく、痛みより眠気が勝った時にだけ少し眠るということを繰り返す。

翌日も休日なので一緒に部屋で過ごす予定だったが
そんな状態だからベッドは一人で自由に気兼ねなく使いたいと恵子が言う。
それで僕はクルマの中で寝た。

翌朝、食事など買い物をしてまた部屋へ戻った。